現在、高卒者の求人倍率がバブル状態にあります。
学費が高い大学にわざわざ行かなくても就職できる、という状態です。
参考:http://news.2chblog.jp/archives/51916266.html
ただ、記事等で書かれていることを信じるならば、
「ある一定レベル以下の大学生を採用するなら、
高校生のほうが素直で、 一から育てたほうがいい
と評価する声も中小企業を中心に出始めた」
という採用側の意見は、個人的に非常に怖いと感じます。
これは冷静に捉える必要がある情報です。
「高卒者の中での優秀な群と大卒者の中での一定レベル以下の群」
というものが、
どの程度の規模で存在しているか、
という点をまず考える必要もありそうです。
もちろん高卒者の上位優秀層には、
金銭的な問題等で大学には進めないが優秀であるという層は一定数います。
しかし「本当に」優秀な学生であれば、借金ではない奨学金」を取り、
難関大学に入学する道を選ぶことができるはずです。
一般的には
「もう勉強したくないから・自分は勉強ができないから高卒で働く」
というところが大半の高卒者の素直な気持ちであると思われます。
社会に出てからの方が勉強しなくてはならない機会が増えることに気付かず、
「働いてもまた勉強するのかよ」
という気持ちになってしまうのが実情だと思われます。
その間接的な証拠が、
3年以内の大卒者離職率30%超、高卒者離職率40%超、
というデータにも反映されているのかもしれません。
参考:http://news.mynavi.jp/news/2016/10/26/425/
高卒で安く使い倒されて、嫌になって自分から離職してしまっては、
それこそ、その後の人生、非常に厳しくなっていくのは容易に想像できます。
学歴なしで、厳しい転職市場に放り出されるのですから。
さらに言うなら採用企業側の本音としては、
「大学でいらぬ知識を付けてきた大卒者は使いづらい」
という意味にも取れます。
大学では高校とは異なり
「教科書に書いてあることを疑う」
という訓練を行います。
つまり、高卒までは
「大人・上司の言うことが正しい」
という教育を受けてきた学生が、
「大人・上司の言うことを疑う」ということを大学で覚えてしまう
ということになります。
(もちろんすべての学生がそう、とは言いません)
となれば全体の傾向として、
高卒者の方が「素直」に「大人の言うことを聞く」
という印象になるのでしょう。
しかし、本当に今の世の中、
「素直に言うことを聞く」
という若者が多ければいい、ということになるのでしょうか。
それは本当に企業のためになっているのでしょうか。
そのような若者が次の世代としてその企業の上司の立場になったとき、
この先の未来の状況に対応して、その企業を発展させることができるでしょうか。
もちろん、大学に行けば全て解決、という意味ではありません。
しかし、「既存の知識を疑う」という方法を正しく学んでいるかどうか、
という点は、個人的には大きな違いを生み出すのではないか、と感じています。
結局は、何か大きな問題に直面した時に、
今までの方法での問題を総点検し、問題を解決する方策を考える、
という、問題解決の基礎方略へと思考を進めることができるかどうかが、
その先を決める大きなポイントになると思います。
この思考の方略を学べるのが大学だと考えています。
今、お金で解雇を自由にできるようにする、
という法案も検討されてしまっています。
参考:https://www.bengo4.com/c_5/n_6393/
これは、安くて言うことを聞くから、という理由で高卒者を雇い、
使えない、給料が上がってきてしまった、というときに、
容易に「再度安くて言うことを聞く高卒者を取ろう」と、
人材を入れ替えることができるようになる、ということも意味します。
自分から離職するのが4割もある中で、
企業側からも使い捨てられる機会まで増えてくるリスクが高まります。
学歴なしで、社会に放り出されるリスクがどんどん高まるわけです。
さらにいうならば、現在は少子高齢化が急激に進んでいて、
今は(実感はできませんが)好景気の状況にある一方で、
この景気の波はいつか引いていきます。
そうなれば、結局は企業側も若者を育てる余裕もなくなり、
即戦力を求めて、有名大学の大卒者を優先して取るようになるでしょう。
特にこれからは、高卒で手や知識に職を持たない若者は、
AIやロボットなども、雇用の競合相手として戦っていかないといけません。
そんな状況が数年後以降に容易に見える今の時代に、
高卒で社会に放り出されるリスクというものをしっかりと考えておかないといけません。
近視眼的に目の前のえさに食らいつくのではなく、
長期的な視野に立ってものごとを理解しようとすることが必要であり、
こういう考え方というのも、大学が教育しようとしている方向性だと思います。
ぜひ多くの若者には、
「教科書や大人が言うことが正しい」という「素直な若者」ではなく、
「教科書や大人を疑う」という「大人が使いづらい若者」になってもらいたいと、
強く願います。
そういう意味では、この記事の内容に対して、
「感情的に、そんなことない」と批判したりするのではなく、
冷静に「本当に正しいのだろうか」という疑問に対して、
この記事の内容を否定する「客観的な証拠」を探す、
という技術を身につけているかどうか、が問われているということになります。
※
この記事は
現役大学教授である夫が執筆したものを、
私、山中みさとが編集・公開したものです。
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