本記事では、繰り返しの小テストが、
記憶が長期的に保持されることに効果がある、
という結果を示したメタアナリシス論文を紹介します。
「テスト効果」と呼ばれる長期記憶法が、
近年注目を集めていますが、この論文では、
テスト効果が実験的な環境でのデータだけではなく、
実際の教室での環境でも効果がある、
ということを実証しています。
Testing (quizzing) boosts classroom learning: A systematic and meta-analytic review.
Yang, C., Luo, L., Vadillo, M. A., Yu, R., & Shanks, D. R.
(2021). Psychological Bulletin, 147(4), 399–435.
https://content.apa.org/record/2021-24563-001
研究目的
繰り返し行うテストが、
復習・再学習や他の多くの学習戦略(コンセプトマッピングなど)
と比較して、
実験室以外の応用環境でも、
学習した知識の長期的な保持を強化し、
新しい情報の習得を促進する有効な介入であることを検証すること。
研究方法
メタアナリシス
222の独立した研究から抽出された48,478人の学生のデータを統合。
研究結果
全体的なテスト(小テスト)は、
学生の学力を中程度に上昇させた(g = 0.499)。
その効果の大きさは、
対照条件における学習戦略、
テスト形式の一貫性、
教材マッチング、
修正フィードバックの提供、
テストの繰り返し回数、
テストの実施場所と時間帯、
処理時間、
実験デザイン
などの様々な要因に影響を受けた。
その結果、教室でのテスト効果を説明する要因として、
追加的な暴露、
転移に適した処理、
動機付け(モチベーション、やる気)、
があげられる。
本研究結果を受けての感想・コメント
・今回の論文はメタアナリシスを用いた研究なので、
結果については信頼性が高めだと思われます。
・テスト効果は、実は2010年前後に、
学術界ではかなり権威のある学術雑誌である
Science
という雑誌でも論文が採択・発表されるほどに、
非常に注目される長期記憶方略のうちの一つとして知られています。
例えば下記の論文などがそうです。
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1199327
・近年では、学習効果や成績向上効果の研究を行うと、
やはり「モチベーション・やる気・動機付け」が
どうしても出てきてしまいますね。
これは「真理」に近い事柄なのかもしれません。
・この論文の面白さは、
「テスト効果/testing effect」「retrieval practice」と呼ばれる、
繰り返し小テストを行うという長期記憶訓練法が、
実験室だけの効果ではなく、
実際の教育現場・教室でも同様の成果を出せる、
ということを、
メタアナリシスで実証した、というところだと思います。
教師・教員にとって「繰り返しの小テスト」が、
成績向上効果の高い教授法であることが、
改めて示された、ということになります。
ただし忘れてはいけないのは、
「小テストを繰り返すこと」が重要である、という点です。
一回だけ単発に実施して丸付けして返却する、
というだけでは、おそらく効果は薄い、ということです。
この論文でも指摘されていますが、
「繰り返し行うこと」
「修正フィードバックの提供」
といった点が、実施における注意点となると思われます。
つまり、きちんと実施後にきちんと正答に至る解説を行い、
かつそのうえで繰り返し小テストを行う、
ということが、長期記憶保持のために重要、
ということになります。
加えて、どうしても離れられない要因として、
モチベーション・やる気・動機付け、があります。
点数を取れなかったことを責めてやる気を削ぐのではなく、
二度目・三度目に点数が上がった学生を褒めてあげるなど、
学生のやる気を刺激することを通じた、
親や教員の支援が重要、ということになると思われます。
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